あれからもう、2年ほど経っている。       
ただあの時と変わらないのは、
仕事が終わった後に、両手が真っ黒だってことだ。
そして独りで眠気と戦っている。
工場長の大らかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
器がでかいとは、ああいう人のことを言うのだろう。 
別れを惜しむ付き合いは、死を想う生と等しく真実である。
最近、恋愛の単位が通貨のように見えてしまって、
空っぽの部屋をぐるぐると歩き回りながら、
絆のことを考えていた。
酔っていた。
単純に。
酔っていたかった。
世の中がどうでもいいと思う自分を、繋ぎ止めているのは
彼と、彼女の気配だった。
眼鏡を新調したけれど、視覚はもはやツールのひとつでしかない。
手が黒い。
鉄の匂いがこびりついている。